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ちじょう

地上

島田 清次郎

地に潜むもの

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页

青空文庫

第五章 ――埋れたる過去――

何でも聞けば日本有数の大実業家だという。それは事実であろう。十数年前の「青年思想家の天野一郎」が、「日本の大実業家の天野栄介」になっていることは事実であろう。しかしあの姉の「きっと滅ぼしてみせます」と言って天野に連れられて行ったあの宣言は空しくなったのであろうか。現に天野は自分の前に堂々と立ったではないか。そして自分にとってかくことの出来ぬ三年来の深い馴染の冬子を唯の三日で永遠に奪って行くではないか? ……それに自分は、あの昔の北野家の富も地位も失った哀れな一裁縫女でしかない――)

次の日の午後、冬子は天野に伴われて東京へ去った。冬子はお光の内生活に起きた深い大きな動乱や、その動乱の原因である天野とお光との過去の運命については少しも知らずに去ったのである。

「冬子も奪って行った、彼奴は!」お光はこう心から言った。こうお光は心から言わずにはいられないお光の生涯の「埋れたる過去」の事実は次の章に示されるであろう。人々はそこに人間の運命の恐ろしい相を見ることであろう。

第五章  ――埋れたる過去――

お光は金沢の市街から五里ばかり隔った平野の果ての、大川村という海近い村に生まれた。