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ちじょう
地上
島田 清次郎
地に潜むもの
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页
しかし、彼には学校があり、和歌子があり、また深井があった。秋の小学校の懇親会で和歌子が百人近い少女達の中から送る平一郎への微笑を見出したときの誇らしい歓喜。何も知らぬ級友が和歌子を指さして「美しい!」などと囁いているのを聞くおかしさと歓喜と大得意! そうして、そこには常に深井の優しい睫毛の長い涙に濡れたような瞳がいつも輝いていた。少女を愛する心、少年を愛する心、また愛され信頼されることによって奮い立ち、一切の責任を自負しなければ止まない心――それは彼の傲りであろう。彼はよく和歌子と深井と三人づれで、市街の東端のN山へ出かけた。松林の深い茂りと静寂と透明な冷やかさを呼吸しつつ、三人は小高い丘の草原に腰かけて永遠の無垢な歓喜に浸っていた。
「いつまでも僕達は子供ではない、僕達はいまにきっと偉くならないではおかない。僕は貧乏だが真の政治家になって……」(貧乏だが真の政治家になって)とは平一郎の口癖であった。貧乏ということと政治家ということがどういう径路で結合しているかは彼自身にも分るまい。また彼の「政治家」と「現実世俗の政治家」とは意味がまるで違っていることもたしかであろう。