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ちじょう

地上

島田 清次郎

地に潜むもの

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页

青空文庫

大河君、今夜いらっしゃい。僕は案内します」

「君は僕に隠していたのだね」

「許してくれたまえ。僕にも一つの――一つの秘密はあったのです。しかしそれも今打ち明けてしまったのです。もう君には僕はその一つの秘密――も――もっていないというものです。ほんとに今夜来てくれたまえ」深井は能動的で熱情に恵まれていた。

「行くよ」

平一郎は答えて何故か涙が瞳に滲んで来るのを覚えた。ああ、意気地ない自分。愛する少年に苦しみを見抜かれ、救いを教えられる腑甲斐ない自分、と彼は思って泣いた。

細かい粉雪が絶えず降っていた。濁った灰色の空から無気味な無音の状態で白い粉がちら/\降るのである。湿った地面は絶えず白い雪片を吸収してその存在を消滅させたが、家々の屋根や軒や電信柱はすでに二、三寸の雪を積らせていた。北国のこの市街ではもう四度目の雪で、時折烈風が街中を吹き荒れて行くこともあった。平一郎と深井はマントの頭巾を目深に冠ぶり、一本の傘を二人でさして人通りの絶えた暗い陰鬱な、生存ということが全然無価値なものだと想わすような夕暮の街を急ぎ足で歩いていた。二人は何も言葉を交わさなかった。