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ちじょう

地上

島田 清次郎

地に潜むもの

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页

青空文庫

母は「お前さんはこのさき中学校へはいり、高等学校へはいり、大学へはいって偉い人にならなくてはならないのです。それにはお金がいりますでしょう。だから今のうちになるべく倹約して置かなくてはいけませぬ」と言ってくれた。母は又、こうして廓の傍へ来たのは、する仕事(裁縫)の値がいいからで、お前は廓のそばにいても立派に勉強してくれなくてはいけないとも言ってきかした。平一郎はほんとに自分は偉くならなくてはならないと考えた。この精神が彼を小学校を首席で卒業させ、またこの精神が彼を単なる意気地なしの代名詞である優等生たらしめることなく、またこの精神が今彼をして男らしく和歌子に自分の真情を打ち明けようといたさしめていた。この精神はいずこより来たか。亡き父の意志よりか、母のお光の献身的な愛よりか、あるいは貧しい寂しい境遇の自覚よりか。そのいずれもであるには相違ない。しかしその根源にいたっては誰人も知ることは出来ない。それを知るものは平一郎の内なる平一郎を生みたる宇宙の力そのものである。そしてそれは人間の言葉としては表現出来ないものである。

九時近くになってから母のお光は帰って来た。