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ちじょう

地上

島田 清次郎

地に潜むもの

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页

青空文庫

お光は近頃平一郎がひどく痩せたのを今更のように見た。そして遂に上京の話はいわず仕舞にしてしまった。

次の日の午過ぎ、平一郎とお光が食事をしていると、市子が、お光に平一郎さんを連れてすぐ古龍亭に来てくれとの冬子から電話だと知らして来た。お光は恐ろしいものにぶつかったように、慄えながら、重大な運命の岐れ路をはっきり見ながら、祈るように、

「平一郎、お前、もし世話してくれる人があったなら一人で東京へ行って勉強する気がありますかい」とたずねた。

「――?」

「冬子さんがね、お前が東京へ行って勉強する気があるなら天野という方に頼んでみるがどうかと話していたのですよ」

「――?」

「つまり天野さんのお邸に置いていただいて、学校へやっていただくのですからね」

「――僕、とにかく古龍亭へ行ってみましょう!」

「そう」お光はがっかりして喪神したように箪笥から新しい袴、羽織、袷を出して黙って彼の前に置いた。そして自分も着物を着替えてかなり遠い雪路を歩いて古龍亭へ出かけた。

お光は門口まで来て、はいらなかった。女中は平一郎を鄭重に案内した。畳廊下を通って行くと、向うから冬子が微笑みつつ迎え出た。