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ちじょう

地上

島田 清次郎

地に潜むもの

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页

青空文庫

「そう」

玉は外へ出て行った。平一郎は八畳の明るい部屋に出て、一体「電話」が何処にあるのかしらと部屋中を見廻した。電話らしいものは見えなかった。ただ、部屋中があまりに磨かれ、調度が精巧すぎ繊細すぎて、大らかな感じが少しもしないのを認識した。彼は小さい光った長火鉢の前に冬子と正面に向い合って、さてどうしたものか(気の毒さ)を感じたのである。彼が感じたはじめての感銘が(気の毒さ)であったとは。

「ここは貴方のお住居ですか」と平一郎は思わずたずねた。

「ここ? そうですの。どうして?」

「随分狭いですね」

「そう、随分狭いわね」冬子は微笑して、「まだこの後ろにね、大きな家があるんですのよ。ここはほんのわたしの寝所ですの、ね」

冬子は囁くように話したが、あたりがあまりに静寂で、高く響いた。今のさき過ぎて来た都会の騒音はなかったことのようにここへは響かなかった。都会の中央の激しい渦巻きの中にこのような静かな空間と時が潜んでいることを知る人は知るであろう。冬子は茶を入れたり菓子を出したりした。平一郎は空腹を感じていたのでその菓子を残らず食った。

「腹が空いてしまった」