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ちじょう
地上
島田 清次郎
地に潜むもの
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页
機械になり切れない小妻にとってはそれは惜しい惜しい生命の濫費だった。まだ二十五にもならない小妻は、やせこけて暗い凋びた容貌に変じてしまったのも無理でない。小妻は一日中忌わしい行為の追憶や脅迫につきまとわれ、恐ろしい暴力の虐げを呪っていた。「わたしはいつも眠ったまま、眼ざめるときがなければよいと思いましてよ」ああ、ひとり寝る夜の寂しい幸福よ――冬子がじいっと小妻をみつめていると、小妻の窪んだ瞳が、ぽっかり開いた。太陽の光がさっと眼にしみたらしかった。
「あ、お天道様」と彼女は微かに呟いたが、光を浴びた中から冬子を認めて淋しく笑った。「もうお目覚め?」
「ええ、今のさき、時計の音で目が覚めましてよ」
「そう――ああ、わたしいやな夢をみていましたっけ。わたし唸らなかったでしょうか」
「いいえ、よく寝入っていらしってよ――ほんとにいい朝ですのね、小妻さん」
「わたし、冬子さん、笑いなすっちゃいけませんよ。ふっと眼がさめるとお太陽様の光がそれは美しく見えて、わたしはことによったら死んで極楽へ来ているんじゃないかと思ってよ。すると、横にこの人(鶴子を指さして)の太い腕が見えましたから、ああ、わたしはやっぱり地獄にいるのだっけと思いました」