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ちじょう
地上
島田 清次郎
地に潜むもの
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页
ああ、そのためにのみ今まで黙って来た平一郎であった。彼はこの彼の全存在を揺るがす言葉の前に寂しい致命の痛みを感じつつ青い空を仰いだのだ。そうして、そこにはいろ/\の忘れがたい記憶が美しく想い起こされて来た。
去年の春のことであった。中等程度の学校へはいっている小学校卒業生の談話会が小学校の唱歌室で開かれたことがある。黄金色の春光の射し入る窓際にポプラの平たい葉が早春の微風に揺らいでいた。五、六十人の少年と少女が夢みるようにお互いの話にききほれていた。どんなつまらない話もつまらないということはなかった。憂鬱な、悲壮な、壮大な、もしくは非常に滑稽な幻想がみんなを酔わしていた。平一郎は何故か難しい議論をする気になれず、アラビヤンナイトの「アリババ」の話をした。
「同時に兄の首は血に染みて土の上に落ちました――」と話して、森と静まった室内を見わたすと、窓からはそよ/\と揺れるポプラの葉が白く光り、得も知らぬ感激が彼のうちに高まって来た。ふと彼が「あやしい」気になって下を見下したとき、彼は威厳のある深い力に充ちた少女の瞳を見出した。先刻から彼を視つめていたその瞳は彼の認識を認め感じて暫くたじろいだが、再び燃え立ち彼を襲うのであった。