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ちじょう

地上

島田 清次郎

地に潜むもの

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页

青空文庫

と呼んだ。二人の少女は白粉のはげかかった顎をなでながら「何ですか」と出て来た。

「もう踊りのお師匠さんのところへいっておいで」

「はい」

「そして、お師匠さんに夕方お閑になったらお遊びにおいでと言うのですよ、分ったかい」

「はい」二人は小ざっぱりした振袖の単衣に、帯も紅縮緬に黒繻子の打合せの美しいのを締めて、稽古扇で拍子をとりながら、「おっかさん行ってまいります」と出て行った。時計は午後一時を指していた。冬子は風呂へゆく前に女将にお光を引き合わして行こうと思って、長い暗い廊下を土蔵の裏の離室まで行った。青みがかった室の壁と、室の前のささやかな茂みの多い小庭と、古びた板塀が、青空をひろく受けて、そこに静寂な単一な世界を湛えていた。お光は縫物を拡げてこつ/\針を運ばせていた。

「まあ小母さん、仕事をしていらっしゃるの」

冬子にはなじみの深いお光の穏やかな涙に、豊かな微笑がむくいられた。(ああ、いい小母さん)と彼女は思った。

「小母さん、どう思いなすって」

「何を?」

「わたし達のありさまを」

するとまた、お光はゆるやかに微笑んでみせた。(小母さんはもう、わたし達の生活を根本から視透して、もうゆったりしたいつもの情け深さにかえっているのだ)と冬子は思った。