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ちずにないまち

地図にない街

橋本 五郎

「新青年」1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,139 字 · 32 页

青空文庫

氏は物語の合間合間、自分の正しいことを力説したが、今から考えてみると、その無闇な激昂や他に対する嫌味なまでの罵倒も、皆自殺する前の悲しい叫びとして、私には充分理解できる気がする。

氏はこの物語を、私以前の誰かへも話したかもしれぬ。が、物語がひどく私達の常識からかけ離れているのと、それから場所、人に対する成心の故とで、おそらく誰にも信じてはもらえなかったであろう。氏としては自殺するより他、路がなかったのに違いない。かくいう私でさえもが、当時、物語の面白さについ釣りこまれて、監視された氏の部屋に二時間近くも対座していたにはいたが、いついかなる傷害をこうむろうともしれぬ不安から、すわといえばただちに飛び出し得る覚悟だけはしていた覚えがある。

怒りのためにことに鋭く見開かれていた眼や、呪いのために特に激しかった言葉の調子や、それから壮士の如き態度、時折猫のように廊下へ気を配る様子などは、確かに私達の氏に対する考えを誤まらした。氏は私達同様、この朗らかの青空の下で、悠々人間としての権利を主張してよかったのだ!

私は氏のためにこの物語を発表してみようと思う。