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ちずにないまち

地図にない街

橋本 五郎

「新青年」1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,139 字 · 32 页

青空文庫

決して罪じゃないんだからな。そしてこん度のは、うまくゆけば相当な金になろうもしれぬ。いいや金でなんか買えぬいいことがあるかもしれぬ。お前さんは人間がしっかりしているから、ひょっとすりゃ、それでまた世の中へ帰れるかもしれないや。ま、そのことはそれでいい、とにかく早く顔を当たって来ることだ。俺は公園で猿とでも遊んでいるからな」

老人のいう、つぎのいいことは何であろう? 寺内氏は、朝からの、いや昨夜からの経験で、もう絶対に老人を信じていた。そしてこの愉快な生活に、今はほとんどの同意をさえもつようになっていたのである。

氏は付近の床屋で快い鋏の音を耳近くききながら、老人のつぎの『いいこと』を考えていた。

――自分は寝た。そして食った、着た。そのうえにいいこととは何であろう? 金か、いや老人は金以上のものがといったのである。金以上のものといえば――おお女、老人は自分にひとりの恋人を与えようというのではあるまいか?

寺内氏は浮き浮きとした気持になって床屋を出、老人の待っていよう公園へ引っ返して行った。

「いいかい、この町には名前がないんだからな、こんな町は参謀本部の地図にだってありはしない。