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うもれたにほん

埋もれた日本

和辻 哲郎

――キリシタン渡来文化前後における日本の思想的情況――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,399 字 · 43 页

青空文庫

ただしかし、それらの物語を特に応仁以後の時代の製作として確証し得るかどうかは疑問である。中にはもっと古い時代の写本が見いだされているものもある。しかしそれらの物語がさかんに書写され、したがってさかんに受用されたのが、室町末期であったことは、認めてよいであろう。その限り我々は、これらの物語において応仁以後の時代の民衆の心情に接し得るのである。

さてそのつもりでこの時代の物語を読んで行くと、時々あっと驚くような内容のものに突き当たる。中でも最も驚いたのは、苦しむ神、蘇りの神を主題としたものであった。

その一つは『熊野の本地』である。これは日本の神社のうちでも最も有名なものの一つである熊野権現の縁起物語であるから、その流布の範囲はかなり広汎であったと考えなくてはならない。ところでそこに語られているのは、熊野に今祀られている神々が、もとインドにおいてどういう経歴を経て来たかということなのである。したがってそこには、インドのマガダ国王の宮廷に起こった出来事が物語られている。しかもそこに描かれている世界は、衣裳、風俗から役人の名に至るまで、全然『源氏物語』ふうであって、インドを思わせるものは何もないのである。