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きょうかいなきさべつ

境界なき差別

丘 浅次郎

「心理研究  第10巻」1916(大正5)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,992 字 · 18 页

青空文庫

四

また仮説と事実との関係もこれに似たもので、仮説の中には、すこぶる真らしからぬものから、よほど確からしいものまでさまざまの階級があり、その中のもっとも真らしいものを事実とみなしているに過ぎぬ。地球が丸いということも、地球が太陽の周囲を廻転するということも、今では事実とみなされているが、昔はただ仮説に過ぎなかった。今日といえども地球は丸くないと唱える人もあるが、その人から見れば、地球の丸いということは、事実でなくて、誤った仮説と考えられているであろう。

四

われらはつねづねかように考えるゆえ、いずれの方面を見ても、差別はあって境界はないというのが宇宙の真相であるごとくに感ずる。差別はあるが境界はないというのが宇宙の真相であるとすれば、ある差別をないと思うのも誤りであり、ない境界をありとみなすのも誤りである。差別のあることにのみ注意すると、とかく、境界のない所に境界ありと信ずる誤りにおちいりやすく、境界のないことにのみ注意すると、とかく、ある差別をもこれを無視するの弊におちいりやすい。されば何ごとを論ずるにあたっても、「差別はあり境界はなし」という根本の事実をつねに念頭から離さぬようにして、両方に注意せぬと、いずれか一方の誤りにおちいるを免れぬ。