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ぼちてんぼうてい

墓地展望亭

久生 十蘭

「モダン日本」1939(昭和14)年7月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,485 字 · 93 页

青空文庫

……はじめて女の叫び声をあげたあの唇。ひとの心を吸いとるようなあのふしぎな黒い眼。楊の枝のようなよく撓うあの小さな手。……あの娘にもう逢うことが出来ないのかと考えると、そう思っただけでも、頭の中のどこかが狂い出しそうな気がする。

竜太郎は、両手で顔を蔽うと、喰いしばった歯の間で呻く。

(あきらめない! どんなことがあっても、かならず探し出して見せる。たとえ、世界の涯まで行ってでも……せめて、もう一度だけ! たった、一度だけでいいから!)

心が激してきて、われともなく立ち上って、巴里の上に両腕を差しのばしながら、叫んだ。

「どこにいるんだ? 君は、いったい、どこにいる?……言ってくれ、よゥ、言ってくれ」

切ない哀痛の涙が、泉のように眼からあふれ出す。もう、なりもふりもかまっていられなくなって、人通りのはげしい、そこの石段の上にしゃがみ込むと、腕で顔を隠して、大声で泣いた。

マラコウイッチ伯爵夫人の邸は、ペール・ラシェーズの墓地の裏側にあった。

大きな鉄門のついた宏壮な邸宅で、城壁のような高い塀が、その周りを取り巻いていた。

門を入ると、そこは広々とした前庭になっていて、小径のところどころに、ベニス風の小さな泉水盤が置かれてあった。