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ぼちてんぼうてい
墓地展望亭
久生 十蘭
「モダン日本」1939(昭和14)年7月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,485 字 · 93 页
(なにしろ、うまく遊ばれたもんだ)
それはいいが、……それはいいが、これほどの自分のひたむきな熱情や真実が、こんな無残な方法で虐殺されたと思うと、つらかった。
たぶん、魂が痛むというのは、こんな感じをいうのであろう。胸のどこかに孔があき、その創口から、すこしずつ血が流れ出しているような、そんな辛さだった。
ふと、気がついて顔をあげると、ダンピエール先生が、半身をこちらへ捻じ向け、ペンを持ったままで、気遣わしそうな面持でこちらを眺めていた。ヤロスラフ少年は先生のそばで、何かせっせと紙に書きつけていた。
竜太郎が顔をあげたのを見ると、先生は、いつものように屈托のない調子で、
「……すこし、顔色が悪い。気分でも悪いのではないかね。……それとも」
チラと皮肉な微笑をうかべ、
「バルカン半島のような政事的擾乱が君にも起こっているのか」
と、いって、大声で笑い出した。
竜太郎はハンカチで額を拭う。ひどい冷汗だった。出来るだけ快活なようすをつくりながら、
「いや、そういうわけではありません。ええと、……大急ぎで、リストリア語とルウマニア語の比較論を書き上げなくてはならないことになって、……この頃、ずっと寝不足をしているものですから、それで……」