轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
ぼちてんぼうてい
墓地展望亭
久生 十蘭
「モダン日本」1939(昭和14)年7月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,485 字 · 93 页
黙らせるために、自分の唇で少女の口をふさいでしまった。やはり、どこか、心がしらじらとしていて、調子を合せるほど無邪気にはなれなかった。そんなことは、どうでもよかった。
自殺するはずの、じぶんが、それを実行し得なかったのは、思いがけない急転換のせいである。もう会えないかもしれないという、その思いが恋情を駆りたてた。……しかし、じぶんが身も※れるまで、あの少女を恋いわたるようになったのは、ただそれだけのためであろうか。じぶんの心は、はっきりと(いな!)とこたえる。少女の誠実と無垢な愛が、じぶんの心情を刺し貫いたためである。へなちょこなじぶんの根性は、純真な愛の平手で横ッ面をぴしゃりとやられ、深いところで昏睡していた本心が、びっくりして眼をさまして、おやッ、と思った。こんな無垢な愛情には終生、二度とめぐりあうことはないぞ。いつのまにかこちらも、命をかける気になっていた。
ところが、ソルボンヌ大学の教授室で、あの夜の少女がリストリアの王女だとわかると、持ちまえのへなへな心は、一夜の気まぐれに弄ばれたのだと頭からきめ込んでしまった。それならそれで諦めでもすることか、不甲斐ない恋情で身をやつらせ、未練がましく悶えたり恨んだりしていた。