轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

ぼちてんぼうてい

墓地展望亭

久生 十蘭

「モダン日本」1939(昭和14)年7月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,485 字 · 93 页

青空文庫

そんな単純な匂いではなかった。なにか、微妙に複合した、高貴なそのくせ、からみつくようなところもある、たとえば、蒸溜器の中で調合された媚薬の香とでもいったような、言いあらわしようもないふくよかな香気で、それが、水脈のようにあとをひきながら、ほのぼのと広間の出口のほうへ流れている。

竜太郎は、われともなく心をときめかして、かぐわしいその水脈に乗って、吸い寄せられるようにそのほうへ歩いて行った。

土壇へ出てゆくと、片かげの薄闇の中に、竜太郎の揺椅子にひとりの婦人が掛けて、しずかに海を眺めていた。黒檀色の海の上で、船の檣灯の光が、いくつも重なり合い、ちょうど夜光虫のようにユラユラとゆれている。すこし湿った大気の中に春の息吹のような軽々とした香りが立ち迷っていて、微かな海風が起るたびに、なよなよと竜太郎のほうへ吹きつける。さきほどの微妙な香気は、この婦人からくる匂いだった。

竜太郎は長い間、竜舌蘭のそばに立ちつくして、気がついてくれるのを待っていたが、いつまでたっても、その婦人は身動きもしない。なにか、深い物思いに沈み込んでいるのらしく、すぐそばに竜太郎が立っていることに、まるっきり気がつかないふうだった。