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ぼちてんぼうてい

墓地展望亭

久生 十蘭

「モダン日本」1939(昭和14)年7月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,485 字 · 93 页

青空文庫

眼もあやなゴブラン織の壁掛が掛け連ねられてある広い待合室には、燕尾服や、勲章や、文官服や、大礼服が溢れるばかりにうち群れていた。典雅な会話と、洗練された社交的な身振りが、花のように揺れていた。

謁見室につづく、見上げるように大きな楡の扉の両脇に、白い長い鳥毛のついた、金色の兜をかぶった竜騎兵が、抜剣を捧げて直立していた。

竜太郎は、何気なく、向って右側の竜騎兵の顔を見ると、思わず驚異の叫びを上げた。それは、いつかの日、写真の献辞を読んでくれたヤロスラフ少年だった!

竜太郎は、われともなく、その方へ進んで行って、

「ヤロスラフ君」

と、声をかけた。

ヤロスラフ少年は、何事も聞かなかったように、空間の一点に視線をすえて、凝然と直立している。

瞬きひとつしなかった。

竜太郎は。じぶんのはしたなさが悔まれた。いかにも参ったような気持になって、もとの場所まですごすごと引き退った。

一見、身すぼらしいほどのあの少年が、近衛の竜騎兵であったとは!……またしても、何か、得体の知れぬ不安が、ムラムラと湧き起るのをどうすることも出来なかった。突然、ある想いが頭にひらめいた。