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ぼちてんぼうてい
墓地展望亭
久生 十蘭
「モダン日本」1939(昭和14)年7月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,485 字 · 93 页
……この、感じは、すこし、つらすぎた。(やはり謁見式なんかにやってくるんじゃなかった。……はじめから、わかりきっていることを……)
次ぎの謁見者の跫音が、すぐじぶんの後に迫って来た。もうどうすることも出来ない!
竜太郎は、最敬礼をすると、低く頭をたれたまま後退りに三歩あるき、それから、耐えがたい憂愁を心に抱きながら、しおしおと、炎の道を戻り始めた。
待合室の入口のところで、文部次官が、追い縋って来た。竜太郎の腕をとって部屋の片隅に引いて行きながら、すこし気色ばんだ、圧しつけるような声でいった。
「ムッシュ・シムラ。……三月二五日の、戴冠式の前日のレセプションのこともありますから、ご注意までに申し上げるのですが、女王殿下に言葉をお掛けするようなことは、絶対に、慎んでいただかなければ……」
竜太郎は、遣る瀬ない憤懣の情から、思わず鋭い声で訊きかえした。
「お祝いの言葉を言上することも、慎まなければならないのですか」
文部次官は、うなずいた。
「たとえ、どんなことがらでも!」
「それは、なぜ?」
文部次官は、竜太郎の耳に口をあてて、囁いた。
「女王殿下は、唖者であられるのです」