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だんのうらのおにび
壇ノ浦の鬼火
下村 千秋
「赤い鳥」赤い鳥社、1927(昭和2)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,170 字 · 15 页
が、法師はかたく口をむすんでいました。
「法一。……こりゃへんじがないぞ。いないのか。」
と、武士は、えんがわへよって来ました。
「おや、ここにびわだけある。が、法一はいない。へんじのないのもむりはない。が、耳だけがあるぞ。使いに来たしょうこに、これを持っていこう。」
こう武士はつぶやくと、法師のりょう耳は、いきなり鉄棒のような指先で、ひきちぎられました。けれど法師は、声もだせませんでした。
武士は、それでいってしまいました。
夜がふけて、お坊さんは帰って来ました。そして法師が、りょう耳から流れでる血の中にすわっているのを見つけました。
しかし法師は身動きひとつせず、きちんとすわっています。お坊さんは、びっくりしながら、
「法一、このありさまはどうしたのじゃ?」
と、さけびました。法師はそこで、はじめてわれにかえり、今夜のできごとを話しました。
「ああ、そうじゃったか。いや、それはわしの手落ちじゃった。おまえの耳ばかりへは、経文を書くのを忘れたのじゃ。これはあいすまぬ。が、できたことはしかたがない。このうえは、早く傷をなおすことじゃ。それだけのさいなんで、命びろいをしたと思えば、あきらめがつく。