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つぼいさかえさくひんしゅう『こよみ』かいせつ

壺井栄作品集『暦』解説

宮本 百合子

壺井栄著「暦」解説、光文社日本文学選、1949(昭和24)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,749 字 · 6 页

青空文庫

栄さんは、おそらく現実にそういう経験をしたことがあったのではなかったろうか。そして、獄中の繁治さんのためにも、その小説が印刷されるように努力したのではなかったろうか。

その短篇は、主題は働いて生きる女性の積極な面をとらえていても、表現は一般的な写実の範囲にあった。ところが、それから四五年したら、「大根の葉」「暦」と、壺井栄さん独特の作風をもつ作品が生まれはじめた。これは、壺井栄さんが婦人作家のおちいりやすい技巧をこねまわした工夫の結果ではなかった。わたしは、むしろ、人間として女としての壺井栄さんが、ある意味で腹を立て、地声で、自分の言葉と云いまわしで、素直で自然な多くの人々はどう生きるかということについてすぱすぱとものを云いはじめた結果だと思う。さもなければ、「財布」から「大根の葉」「暦」への決定的な表現の飛躍が理解されない。ますます息づまって来る当時の戦争万能の社会の空気と、そのなかでからくも情緒的な何かを保とうとしているいわゆる女流の文学。そのころはプロレタリア文学の運動も挫かれていた。壺井栄さんは、『戦旗』の発行や発送のためには大きい見えない力として扶けた人だった。