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へんなおとこ

変な男

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页

青空文庫

」

「娘でございますよ。」

「あそうですか。失礼しました。」

彼はきちんと坐り直して、とってつけたように低くお辞儀をした。その様子を下目にじろりと見やって、澄子はくくっと忍び笑いをした。辰代はその袖を引張った。

「この方が二階の室を借りたいと仰言るんですが……。」

云いかけた所を、澄子の笑ってる眼付で見られて、辰代は自分の余りな白々しさが胸にきて、文句につまってしまった。それへ向って、学生はまた一つお辞儀をした。

「どうか願います。」

ぷつりと云い切って、身を固くかしこまったまま、もう身動き一つしなかった。

暫く沈黙が続いたのを、辰代が漸う口を開いた。

「私共ではこの二人きりで、手不足なものでございますから、何もかも不行届きがちになりますけれど……。」

「なに結構です。それでは今晩参ります。」

「あの今晩すぐに……。」

「ええ。学生の引越しなんか訳はありません。」

彼はもう立ちかけていた。

「では急ぎますから、失礼します。」

辰代と澄子とは、彼をぼんやり玄関に見送った。それから障子を閉めきると、辰代はほっと吐息をついた。

「私あんな人は初めてですよ。」

「でも正直そうな人じゃありませんか。