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へんなおとこ

変な男

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页

青空文庫

中には、四五枚の着物と、幾冊かの書物と、アルミの鍋と、大きなボール箱とがあった。ボール箱の中には、砂糖とパンとがはいっていた。

午と晩とを、彼はパンと牛乳とですごした。所が牛乳は、辰代が台所の瓦斯で沸かしてくれたので、アルミの鍋は押入の中に投り出されたままになった。お茶はいつでも玄関の茶の間にあったが、彼は辰代が貸してくれた火鉢の鉄瓶から、湯ばかり飲んでいた。その代り、一週に二度くらいは、近くの店から西洋料理や蒲焼などを取って貰った。

「御馳走は、」と彼は云った、「のべつに食べるものではありません。平素粗食をしていて稀に食べると、それがすっかり消化されて、全部身体の栄養になるんです。いつも御馳走ばかり食べてると、胃袋がそれに馴れきって、素通りさせてしまいます。それで、旨い物ばかり食べてる者には粗食が非常に栄養になると同じに、私みたいにパンばかり噛ってる者には、時々の旨い料理が非常に栄養になるんです。胃袋という奴ほど珍しもの好きはありません。」

然し、そういう彼の生活を辰代は不経済極まるものだと思った。そしていろいろ経済の途を説いてきかしたが、彼はただ笑ってるばかりだった。