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へんなおとこ
変な男
豊島 与志雄
「中央公論」1923(大正12)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页
所が今井は、辰代がいくら誘っても、越してきて一二度顔を出したきりで、その雑談の席に加わらなかった。辰代もしまいには誘わなくなった。そして時によると、今井に留守を頼んで皆して活動写真や寄席に出かけた。今日は私が留守をするからと中村が云い出し、辰代が今井を案内しようとすることもあったが、そんな所へは行っても退屈するばかりだと、今井はきっぱり断った。
その退屈という言葉が可笑しいと云って、澄子は笑った。
「あんなに一日中じっとしていて、その方がよっぽど退屈な筈だわ。」
そして彼女は、そのことを今井に向ってまで云った。
「じっとしていても私は退屈はしません。」と今井は答えた。
「じゃ何が面白いの?」と澄子は尋ねた。
「何にも面白いことはありません。」と今井は答えた。
「それではやっぱり退屈じゃありませんか。」
「いえ、面白くもないが退屈でもありません。」
「では何でしょう?」
「そうですね、何でしょう?」そう彼は繰返して、俄に陰鬱な顔付になった。「まあ、夢をみてるようなものですね。」
「だって夢は面白いものだわ。」
「それは後から考えるから面白いので、みてる当時は、面白くも退屈でもありません。