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へんなおとこ

変な男

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页

青空文庫

とっとと出て行って貰いましょうよ。出て行かなければ、私の方で出ていってしまいます。……澄ちゃん何をぼんやりしているのですよ。そう云っていらっしゃい。あなたが嫌なら、私がきっぱりと断ってきます。」

「そんなことを云ったって、お母さん……。」

「いえいえ、止して下さい。もう我慢にも私は嫌です。」

そして彼女は、そこいらの品物に当りちらした。澄子がいくら宥めても駄目だった。中村が帰ってくると、澄子は飛んでいって、訳を――自分にもよく腑に落ちないその顛末を、かいつまんで話してきかした。そして中村と二人で彼女を宥めた。

「またこんなことがあろうものなら、もう此度こそ許しません。」

そう云って辰代はまだ怒っていた。

中村は笑いながら澄子の方を顧みた。

「だから、澄ちゃんは用心しなければいけないと、僕が云っといたじゃないか。」

「だって、」と澄子は不平そうに呟いた、「私何も悪いことをしやしないわ。」

四

それから一週間とたたないうちに、辰代も本当に我慢しかねることが起った。

今井の所へは、なお時々怪しげな青年が訪れてきた。飯を食っていったり、下駄をはいていったり傘を持っていったりして、そのままになることが多かった。