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へんなおとこ

変な男

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页

青空文庫

――彼はいつも朝寝坊だったが、俄に早起になってきて、澄子が学校に行く前に髪を結ってると、少し離れた所に屈み込んで、あかずに眺め入ることが多かった。「澄子さんの髪は綺麗だなあ、」と彼はよく独語の調子で呟いた。――或る時彼は、縁側に屈みこんで、しきりに足の指をいじくっていた。何をしてるのかと思って、澄子がそっと覗いてみると、彼はひょいと振返った。その視線が、彼女の素足の親指に来た。「澄子さんの足の指は、どうしてそうまむしが出来るんです?」その言葉に喫驚して彼女は、力を入れた足の親指に眼を落すと、今迄自分でも気付かなかったが、小さな爪が深く喰い込んでる子供らしい指の間接に、くりくりしたまむしが出来ていた。

そういうことのうちに、それからまだいろんな些細なことのうちに、澄子は自分を見つめてる今井の眼を感じた。そしてその眼が、四方から自分の身辺に迫ってくるような気がした。殊に或る日、彼女は台所で一寸母の手伝いをして、其処から出ると、縁側に今井が立っていた。彼女が学校から帰ってきて、脱ぎすてたまま室の隅に片寄せておいた袴を、後ろ前も前と一緒に持ち添えて、それを帯の所にあてがいながら、しきりに首をひねって考えていた。