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へんなおとこ
変な男
豊島 与志雄
「中央公論」1923(大正12)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页
その様子が変に滑稽でまた真面目だった。澄子は思わず放笑そうとしたが、喉がぎくりとしてつかえてしまった。それからどうしていいか分らなくなった。いきなり台所へ駈け戻って、「お母さん、玄関にどなたかいらしたようよ、」と大きな声で叫び立てた。そして手を拭き拭き出て行く母の後ろから、自分もそっとついて行った。見ると、今井は袴を投り出して、素知らぬ顔でつっ立っていた。彼女はほっと安堵して、彼の方をちらと見やりながら、袴を取ってきて、丁寧にたたんで箪笥の上にのせた。
それまではまだよかったが、やがて、もうどうにも出来ないことが起った。
夕方から風がぱったりと止んだ、いやに蒸し暑い晩だった。真夜中に、澄子はふと眼を覚した。物に慴えて息苦しいような、変な心地がしたので、寝呆け眼であたりを見廻すと、古い十燭の電燈に覆いをした、影を含んでるぼやけた光が、薄すらと流れ出してる次の玄関の室に、物の動いてる気配がした。おやと思って、蚊帳越しに眸を定めてみると、薄青の地に白菊くずしの模様のあるメリンスの着物が、室の真中にぶら下っていた。そんな筈はない、と思うとたんに眼が冴えた。