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なつのそうれつ
夏の葬列
山川 方夫
山川方夫『夏の葬列』。同一底本的分册已合并为一书。收入:夏の葬列、十三年、朝のヨット、煙突、お守り、一人ぼっちのプレゼント、待っている女。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,161 字 · 122 页
女は、いつまで待っているつもりなのか。時計が、遅滞なく冷酷に時を刻みつづけるのだけを彼は聞いた。
次第に、彼はいても立ってもいられない気持ちになりはじめた。もう、三時をまわっている。とすると女は六時間もあの四辻に立ちつづけているのだ。彼はまた便所へ行き、女が同じ場所にいるのをたしかめると、夢中で階段をかけ下り、ふたたび下宿の表に出た。彼は、寒さを忘れていた。
女に近づくにつれ、しかし彼は、自分がなにをしようとしているのか、わからなくなった。たぶん、おれはいいたいのだ、はやく家へお帰りなさい、この寒空の下に、あなたを何時間もほうり出しておく男なんて、けしからん、……でも、こんな言葉が、なんの役に立つのだ? よけいなお世話です。あなたの知ったことじゃないわ。きっとおれは、女の鼻白んだそんな声に、完全に突き放されてしまうのにきまっている。……
思うと、脚を出す速度が急に鈍り、歩一歩となにかが沮喪してゆくのがわかった。女は、赤い頬をしていた。だが、いまは腹を据えたように両手を組み、金網をみつめている。彼はまた『憩』の箱を買った。――結局、彼はなにもいえず、空しく下宿の部屋にかえった。