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ゆうがおのもん
夕顔の門
吉川 英治
「婦人倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,956 字 · 29 页
二
――と。手燭の明りが映して、
『何うした? ……』
と、兵庫の声が後でする。
さっきも今も、兵庫の声には、少しも変りは無かったが、お市は、未練に思われるのが口惜しかったので、
『ええ今……今行くところです』
と、云った。
兵庫は、薄く苦笑したが、門の外の呻き声に、
『やっ? ……誰じゃ』
と、傷負の影へ、手燭をかざした。
二
もう意識を失いかけて、昏倒していた傷負の若い浪人は、兵庫のことばと、手燭の明りに、又びくびくと全身の肉を痙攣わせて、
『武士のお情に! ……お、お匿い下さいませ』
と、絶叫する程な力で、微かな声をしぼりながら、兵庫の足もとを、血しおの手で拝んだ。
兵庫は、夕顔の花より血の気のない――その浪人の顔を見て、愕然としたが、
『斬合か』
と、一言、訊ねた。
『そ、そうです。相手は……相手は五、六人もの人数』
『ひとりか、おん身は』
『…………』
頷くと、其儘、がくりとしかけたので、兵庫は急いで手を伸ばした。そして、傷負の体を、引っ抱えるなり、庭の奥へ、駈けこんで行った。
お市は、その隙に、もう二度と兵庫とは顔を合せない覚悟で――ついと門の外へ踏み出しかけたが、途端に、ばらばらと駈けて来た跫音と共に、