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ゆうがおのもん
夕顔の門
吉川 英治
「婦人倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,956 字 · 29 页
三
三
男女は吃驚して、彼の手を振払ったが、楠平は先へ廻って、道に立ち塞がった。
『何とした事です。お嬢様もお嬢様なら、格之進様も又、武士にあるまじき為され方。――さ、お帰りなさいませ』
『…………』
若い男女は、恟んだまま、楠平の甲だかい声に、顔いろを顫かせていた。
『今のうちにお帰りなされば、誰もまだ知らぬ事、お嬢様も傷がつかず、格之進様も御無事で済みましょうが。……おふたりの仲は、楠平も以前から、薄々はお察し申しておりましたが、お嬢様には、親御様のお口から、嫁に遣ろうと誓った歴乎とした良人のある身。――それを、明日は御婚礼という今夜、こんな事を遊ばしては、親御様のお立場は何うなりましょうぞ』
――すると、それまで黙っていた深見格之進は、
『これ楠平。若党の分際で、いらざる事に出洒張るな。もう御城下を出奔したからには、男女の恋は命がけ、ここは二人が、恋に勝つか死ぬかの峠だ』
『では、何うあっても』
『知れたこと!』
『……でも、お嬢様は、よもや御両親を苦境に捨てて、後は何うでもなれというお考えでは御座いますまい。口の巧い、容貌ちの美い男に限って軽薄なもの。――永い行末に、御後悔をなされますなよ』