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たしんきょう

多神教

泉 鏡花

「文藝春秋」1927(昭和2)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,787 字 · 36 页

青空文庫

森に行く。帯を投げるとともに飛返る。)

神職 何とした。

仕丁 ずるずるずると巻きましたが、真黒な一幅になって、のろのろと森の奥へ入りました。……大方、釘を打込みます古杉の根へ、一念で、巻きついた事でござりましょう。

神職 いずれ、森の中において、忌わしく、汚らわしき事をいたしおるは必定じゃ。さて、婦。……今日は昼から籠ったか。真直に言え、御前じゃぞ。

お沢 はい、(間)はい、あの、一七日の満願まで……この願を掛けますものは、唯一目、……一度でも、人の目に掛りますと、もうそれぎりに、願が叶わぬと申します。昨夜までは、獣の影にも逢いません。もう一夜、今夜だけ、また不思議に満願の夜といいますと、人に見られると聞きました。見られたら、どうしましょう。口惜い……その人の、咽喉、胸へ喰いつきましても……

神職 これだ――したたかな婦めが。

お沢 ええ、あのそれが何になりましょう。昼から森にかくれました方が、何がどうでも、第一、人の目にかかりますまいと、ふと思いついたのです。木の葉を被り、草に突伏しても、すくまりましても、雉、山鳥より、心のひけめで、見つけられそうに思われて、気が気ではありません。