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たしんきょう

多神教

泉 鏡花

「文藝春秋」1927(昭和2)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,787 字 · 36 页

青空文庫

かえって、ただの参詣人のようにしております方が、何の触りもありますまいと、存じたのでございます。

神職 秘しがくしに秘め置くべき、この呪詛の形代を(藁人形を示す)言わば軽々しう身につけおったは――別に、恐多い神木に打込んだのが、森の中にまだ他にもあるからじゃろ。

お沢 いいえ、いいえ……昨夜までは、打ったままで置きました。私がちょっとでも立離れます間に――今日はまたどうした事でございますか、胸騒ぎがしますまで。……

禰宜 いや、胸騒ぎが凄じい、男を呪詛うて、責殺そうとする奴が。

お沢 あの、人に見つかりますか、鳥獣にも攫われます。故障が出来そうでなりません。それで……身につけて出ましたのです。そして……そして……お神ぬし様、皆様、誰方様も――憎い口惜しい男の五体に、五寸釘を打ちますなどと、鬼でなし、蛇でなし、そんな可恐い事は、思って見もいたしません。可愛い、大事な、唯一人の男の児が煩っておりますものですから、その病を――疫病がみを――

「ええ。」「疫病神。」村人らまた退る。

神職 疫病神を――

お沢 はい、封じます、その願掛けなんでございますもの。

神職 町にも、村にも、この八里四方、目下疱瘡も、はしかもない、何の疾だ。