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たしんきょう
多神教
泉 鏡花
「文藝春秋」1927(昭和2)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,787 字 · 36 页
一念は届けて上げます。名高い俳優だそうだけれど、私は知りません、何処に、いま何をしていますか。
巫女 今日、今夜――唯今の事は、海山百里も離れまして、この姉さまも、知りますまい。姥が申上げましょう。
媛神 聞きましょう――お沢さん、その男の生命を取るのだね。
お沢 今さら、申上げますも、空恐しうございます、空恐しう存じあげます。
媛神 森の中でも、この場でも、私に頼むのは同じ事。それとも思い留るのかい。
お沢 いいえ、私の生命をめされましても、一念だけは、あの一念だけは。――あんまり男の薄情さ、大阪へも、追縋って参りましたけれど、もう……男は、石とも、氷とも、その冷たさはありません。口も利かせはいたしません。
巫女 いやみ、つらみや、怨み、腹立ち、怒ったりの、泣きついたりの、口惜しがったり、武しゃぶりついたり、胸倉を取ったりの、それが何になるものぞ。いい女が相好崩して見っともない。何も言わずに、心に怨んで、薄情ものに見せしめに、命の咒詛を、貴女様へ願掛けさしゃった、姉さんは、おお、お怜悧だの。いいお娘だ。いいお娘だ。さて何とや、男の生命を取るのじゃが、いまたちどころに殺すのか。