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よるのわかば
夜の若葉
宮本 百合子
「婦人朝日」1940(昭和15)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,072 字 · 24 页
たとえば夏のかっと灼りつけた庭土の上を蟻が盛に歩いているのを眺めたりしたとき、桃子の若い回想のなかに甦って来るのは、いつもうちの離れの前栽の景色にきまっていた。
茶室づくりの離れの前栽には、松や蕚などがひっそり植えこまれていて、暑い昼間、蜥蜴が走った。小さい桃子のおでこにざらざらした麦藁帽子の縁がさわっている。それは順助がかぶっているのであった。桃子は四角な踏瓦をひっくりかえした下から現れ出た柔かい土とそこにある蟻の卵とを、びっくりして眺めていた。
「ほら、おどろいているんだよ。駈けてるだろ、卵をよそへ運ぼうとしているんだよ」
しかし順助はそれ以上蟻の巣をかきまわしたりはしない。またその四角い踏瓦を元のとおりにかぶせた。そして、口笛か何か吹いて歩き出した。
二人も兄たちがいて、桃子にそんなにして蟻の巣を見せてくれたのはどうして順助だけだったのだろう。
やっぱりそれもいつかの夏、簾の下った部屋部屋の電燈を消して、かくれんぼをしたことがあった。桃子は父の大きいテーブルの下に這いこんで息をころしていたが余りいつまでたっても鬼が来ないのでだんだん待ちきれなくなって来た。