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よるのくつ
夜の靴
横光 利一
――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页
十月――日
三日間家をあけていた。村へ帰ったときは相当に疲れが出て、痔病がひどく悪くなったが、この洞窟のような奥まった六畳の部屋も体を崩すには足る。薄煙りが炉の方から流れて来ているのもわが家らしい。私は妻をからかいたくなる話を一つ溜めて戻って来ているので、それを一つと思うと自然ににやにやなって来た。話の材料というのはただの笑話にすぎぬものだが、もしかしたら、私が誰かに冗戯けられていることかもしれない廻転の深さも含んでいる。
一昨日鶴岡の多介屋で一泊している折のこと、さて今朝は帰ろうと思って腰を上げかけると、S市から二人の有望な大地主の青年が嫁見立に来る。間もなく来ることだろうから、私にもその見立てに参加して意見をきかせてくれと頼まれた。待っていると正午ごろ来た。二人とも、見るからに一鞭あてて今や疾走しそうな溌剌たる騎手のごとき軽快な青年だ。この嫁になるものは仕合せだと私は思った。一人は兵隊から帰ったばかりで眼が明るく大きな体をのびのびとさせている。それが花婿だ。他の一人は眉目きらめき立った才能の溢れた豊かな青年でこれは助手役に来たらしい。どちらも私の見知らぬ人のこととて私はただ黙って傍で話を聞いていると、候補者となっている娘が選定の結果二人となり、そのどちらと先に会うべきかが苦心の模様で、先方の家庭の