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よるのくつ

夜の靴

横光 利一

――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页

青空文庫

見定めなき一日の天候。

この夜、自分らの田を全部刈り上げた参右衛門夫妻が、鳥の巣をもって帰って来て仏壇にそなえた。穂のついたままの新藁が、納豆の包みのようにふくれた中に三つ小さな卵がある。久しく見えなかった空に星が出ている。騒がしく鳴る竹林の風の音を聞きつつ、参右衛門と清江は、明日から稲刈の手伝いに出て行くさきの相談をした。主人の方は長男の嫁の実家へ、清江の方は、自分の実家の組合長の家の田へと。いつもよりこの夜二人は早く寝室へ這入っていった。むかしは人から手伝って貰わなければ刈れなかった彼らの広い稲刈だったのに、今はその反対で、鳥の巣の夢を抱いたようなさみしさがしっとり夜をこめている。何となく、しんと淋しい夜だ。

十月――日

久しぶりの好天だ。風がまだ残っているので、高い梢の桐の実が真っさきに乾いていく。野葡萄の汁が瓶の中で酒の匂いをたてている。酢を作る青柿の皮が樽につめられた。納豆の粘液をためす火箸が藁の中へ刺さり、天井の明り口は煙を吸い上げ、塗戸の杉の目が炉の焔の色を映して明るい。

私は妻と二人で裏の山へ柴刈りに出かけた。二人の目的は十二三分で登れる鞍乗りの峠まで行くことだが、この峠までの坂は息苦しい。