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よるのくつ

夜の靴

横光 利一

――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页

青空文庫

眼に映る山襞が胃の内部にまで縛りつづいて来ているように見える、ある何かの紐帯を感じる刻刻の呼吸で、山波の襞も浸蝕されつつあるように痛んで来る。切断されようとしている神――木の雫に濡れた落葉の路の上で栗のいがが湿っている。沼岸の雑草の中を匐い歩く一疋の山羊だけ、動き停らない。縛られた綱の張り切った半径で円を描きながら、めいめい鳴き叫び草を蹴っている山羊の白さは、遠山の雪のひっ切れた藻掻き苦しむ純白の一塊に見えて、動かぬ沼の水面はますます鮮かな静けさを増して来る夕暮どき――

十一月――日

余目から最上川に添って新庄まで行く。最上川の紅葉はつきる所がない。万灯の列の中を過ぎ行くように明るい。傍に南鮮から引き上げて来たばかりの三人の婦人が語っている哀れな話も、紅葉の色に照り映って哀音には響かず、汽車は混雑しながらいよいよ錦繍の美に映えてすすむ。妻の亡父がこのあたりの汽車から見える滝のあたりに、自分の山のあることを話していたのを私は思い出し、注意して見ているうち、対岸の断崖から紅葉の裏を突き通して流れ落ちている滝が見えた。ここだなと思う。

「現金なものですね。