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よるのくつ

夜の靴

横光 利一

――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页

青空文庫

石畳が村道に変ってからも灯はどこにも見えなかった。雪明りで道は幾らか朧ろになったが、踏み砕ける雪の下から水が足首まで滲み上り、ごぼごぼ鳴った。

十二月――日

廂の日に耀いた氷柱から雫が垂れている。峠をくだって来る雪路に魚売り娘の来るのが見えると、迅い速度でたちまち私のいる縁側へ現れ籠をどさりと降ろした。妻が今夜東京へ発つ長男に持たせるために魚を買っているところへ、火燧崎が来て荷を無事に発送させたと報告した。その荷を逐うようにして午後四時長男が出発する。駅まで送っていった妻が帰って来てから、「もう大変な混雑ですよ。四時のならあなたお一人では帰れませんわ。」という。

私の出発は荷の着くころを狙って行くのだが、私は朝の一番にするつもりだ。その汽車だと駅前のどこかで前晩から泊っていなければ、駅までの夜の泥路は通れない。

夜はまた雪が降って来る。半分に荷の減った部屋の中では、子供の寝床も一つ無くなり隙間が一層拡がった。

十二月――日

雪が解けて来た。傾いた村道に水が流れ底から小石がむき出ている。五六日は東京へ帰る準備で私は日を費していたが、さて身を起して出発しようとすると、意外なふかさで自分の根の土に張っているのを感じた。