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やこうちゅう
夜光虫
織田 作之助
「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页
小沢は急に眉を曇らせた。
「あんたの役はいい役やなア」
という豹吉の言葉が、皮肉のようにも、また小沢を責めているようにも聴えたのだ。
なるほど、考えてみれば、小沢は得意の雄弁にものを云わせて、豹吉に自首の決心をさせることに成功したが、もうそれだけで充分満足すべきであった。
が、小沢はなおそれ以上のことを、要求した。ブルウスカイで待っている青蛇団の連中を説き伏せて、一緒に自首しろ――という難題だ。
豹吉にとって、これほど辛いことがまたとあろうか。
むごい――という言葉があてはまる。たしかに、むごすぎる。
さすがの小沢も、
「おれは今血も涙もない、非情の石ころになっているのかも知れないぞ」
と、もはや豹吉の顔を正視するにしのびなかった。
「しかし、心を鬼にして――ということがある」
大阪の市民のため、ひいてはこの国の社会の秩序のため――いや豹吉はじめ青蛇団の連中が、向日葵のように太陽の子に甦生するためにも、心を鬼にして非情の石となって、無理な要求をしなければならぬと、小沢はあわてて自分に言いきかせると、もうきっと冷かな眼をして、
「…………」
豹吉の少女のような美しい、しかし、やや青ざめた顔を、見つめた。