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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页

青空文庫

それとも、道子がぱっと顔に花火を揚げたのを見て、かえってこちらが照れてしまい、ふと赧くなったのだろうか。

「伊部君いますか」

そうきくと、道子は、

「あのウ、今ちょっと……」

留守ですと、なぜか半泣きの顔になった。

「あ、病院ですか」

伊部が阪大の外科に勤めていたことを想い出した。

「はア、でも……」

曖昧に言って、ふと笑うと、えくぼがあった。

「そうですか」

と、小沢はがっかりして、

「――じゃ、また出直しましょう」

「あら……」

「えッ……?」

「あのウ……」

帰らないで、上ってはどうかと、言いだし兼ねて、道子はもじもじしていた。

「だって……」

お客さんでしょうと、ちらと男の靴を見た。

道子も見て、

「あら、いいんですの」

しかし、ぱっと花火を揚げて、

「――どうぞ」

「そうですか、じゃ」

茶の間へ通されると、小沢は早速きり出した。

「――実は今日お伺いしたのは、著物をお借りしようと思って……」

「著物……?」

「ええ、女の著物なんです」

小沢は頭こそかかなかったが、頭をかきながら――と言った気持で言った。

「女の……?」

道子はふっと眉をくもらせた。

「伊部になら、詳しく事情を話せるんですが……、でも、……」