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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页

青空文庫

母親のことが気になって、一分でも早く家へ帰りたかったが、しかし、それよりも先立つのは、

「一円でも沢山持って帰ろう」

という想いであった。

食堂から洩れて来るのは、光だけではなかった。

肉を焼いているのか、その香いがプンプン漂ようて来る。

「ああ、ええ香がしよる」

三郎はちいさな鼻をピクピクさせて、

「――兄ちゃん、ハナヤのカツレツ美味かったなア」

「うん、オムレツも美味かったぜ」

と、次郎も唾をのみこんだ。

「フズーズボンチも美味かったな」

と、三郎、

「阿呆! フルーツポンチや。フズーズボンチとちがうわい」

と、次郎は叱りつけたが、ふと、ためいきをついて、

「――しかし、珈琲も美味かったぜ」

「わいはあんなにがいもンより、エビフライの方がええ。――ああ、おなかペコペコや」

昼日散々、反吐が出るくらい豹吉に食べさせて貰ったのに、三郎はもう腹の皮がひっつきそうだった。

「うん。わいもペコペコや。――銭があったらなあ。もう一ぺんハナヤへ行てうんと食べこましたるんやけどなア」

と、次郎が言うと、三郎は、

「そや、そや、食べたあとは包んでもろて母ちゃんに土産にする」

「ああ、銭がほしい。