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やこうちゅう
夜光虫
織田 作之助
「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页
「そう、あんたは聴えなかったわね」
お加代は苦笑したが、ふと思いついたように、
「――そうだわ。あんたの耳が聴えるのだったらこんな話はしないわよ。聴えないから、するのよ」
「…………」
お加代の顔を見上げた娘は、お加代の眼がうるんだのを見てびっくりしたような表情になった。
「あたしだって、あの針助に刺青さえされなきゃ、こんな女にならなかったわよ。あたしだって、東京にいた頃は、真面目な娘だったのよ。同性愛も出来ないくらい、コチコチの箱入娘だったのよ。それが東京で焼け出されて一人で、大阪へ流れて来て……」
その時のことを想い出すようにふっと空を見上げると、降るような星空だった。
「ああ。きれいなお星様」
呟いた時、ふと星が流れて、青い光がすっと斜に、あえかな尾を引いて、消えた。
お加代はしみじみと、星の流れるあとへ遠い視線を送りながら、
「……お星様が流れている間に願いごとを祈ると、かなうというけど……」
と、ひとり言のように呟いていると、ふと思いがけぬやるせなさに、胸がしめつけられた。
「――願いごとって、どんなことだろう」
と、その胸の底を覗きかけて、お加代はあわてて想いをそらしたが、しかし、星が見ていた。