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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页

青空文庫

を圧しつぶしてしまったのさ。つまり、刺青にものを云わせて生きて行く生活しか、あたしに残らなかったのさ」

兵古帯のお加代の眼はまたうるみ、声もうるんだが、あわてて自嘲的な笑い声を立てて、

「――あら、随分喋っちゃったわね。あんた聴いてた。聴えなかったの。可哀想に……。でもね、聴えないからこんな愚痴を喋ったのよ」

「…………」

「さア、来たわよ」

あたりが急にぱっと明るくなり、やがてハナヤの店先だった。

「豹吉は昼間靴みがきの子を連れて来たっけ。こんな風に……」

と、想い出しながら、中へはいりかけた時、お加代ははっとした。

入口に蛇の絵を描いた紙片が落してあったのだ。

蛇の絵の紙片が落してあれば……青蛇団の仲間に告げる――。

「危機!」

の暗号なのだ。

その頃――。

もっと正確に云えば、ガマンの針助が兵古帯のお加代と別れて、鴈治郎横丁から出て行った頃――。

次郎と三郎は豹吉を追いくたびれて、というより、豹吉の姿を見失って、難波の闇市の食堂の軒先にある職場へ戻って来た。

「なんぜ待ってくれへんかったんやろなア」

「逃げんでもええのになア」

「なんぜ逃げるんやろなア」

「わいらに掴まったら、もう一ぺんハナヤをおごらされる思てやろか」