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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页

青空文庫

途端に、豹吉はどきんとした。

渡辺橋の上を、警官が一人の女を連れて渡って行くのを、見たのだ。

警官を見て、どきんとしたのではなかった。

警官に連れられている若い娘を見て、驚いたのだ。

手錠を掛けられて、警察へ連れられて行くのであろう、しょんぼりうなだれて、顔が半分かくれていたが、しかし、その美しく整った顔には、見覚えがあった。

忘れもしない――いや、忘れられるものか――雪子だった。

雪子――阿倍野橋の宿屋で小沢の帰りを待っていた筈の雪子が、小沢が著物を持って帰ってやったわけでもないのに、いつ、どうして宿の外へ出たのか。

そしてまた、いつ、どこで、どんな悪いことをして、警官につかまってしまったのか。……

雪子は小沢の帰りを待っていたが、到頭待ちくたびれて、しびれを切らしてしまったのだった。

むろん、小沢にはもう一度会いたかった。

が、それだけに、小沢が帰って来ることが、怖くもあった。

小沢が帰って来れば、きっと、昨夜の裸の原因をきかれるに違いない。

昨夜は頑として、答えなかったが、もう今日となってみれば、いつまでも黙っておるわけにはいかないような気がした。