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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
02 第一部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,315 字 · 25 页
そういうことを言うんです。ああいう半蔵さまの気性をよく承知していながら、そのいばりたい連中が何を話しているかと思って聞いて見ると――いったい、伊那から出て来る人足なぞにあんなに目をかけてやったところで、あの手合いはありがたいともなんとも思っていやしない。そりゃ中には宿場へ働きに来て泊まる晩にも、※遣いをするとか、読み書き算術を覚えるとか、そういう心がけのよいものがなくはない。しかし近ごろは助郷の風儀が一般に悪くなって、博打はうつ、問屋で払った駄賃も何も飲んでしまって、村へ帰るとお定まりの愁訴だ――やれ人を牛馬のようにこき使うの、駄賃もろくに渡さないの、なんのッて、大げさなことばかり。半蔵さまはすこしもそれを御存じないんだ。そういうことを言うんです。大旦那の時分はよかったなんて、寄るとさわるとそんなうわさばかり……」
「待ってくれ。そう言われると、おれが宿場の世話をした時分には、なんだか依怙贔屓でもしたように聞こえる。」
「大旦那、まあ、聞いてください。半蔵さまはよく参覲交代なぞはもう時世おくれだなんて言うでしょう。町のものに聞いて見ると、宿場がさびれて来たら、みんなどうして食えるかなんて、そういうことも言うんです。