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よなきてっこつ

夜泣き鉄骨

海野 十三

「新青年」1932(昭和7)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,273 字 · 31 页

青空文庫

「わしが助ける」

鉄梯子に掴って、上を見ると、政は、気息奄々たる形であるが、早くも半分ばかりの高さまで登っていた。わしは、ウンと、腰骨に力を入れると、トントンと、手拍子と足拍子と合わせて、梯子をスルスルと攀っていった。見る見る政とわしとの距離は、短縮されて行った。もう一息で、政の身体に手が届くというところで、わしはツルリと、左足を滑らせた。ワッという溜息が、下の方から、聞えてきた。もう余すところは、五六尺しかない。ワンワン、ガヤガヤと、焦燥そうな群衆の声が聞える。わしは、速力をグッと速めた。

気が気じゃなく、上を見ると、政はすでに熔融炉の縁から上へ、上半身を出している。機会は、今を措いて、絶対に無い。しかしわしの手は、まだ三尺下にしか届かない。

ワンワン、ガヤガヤの声も、耳に入らなくなった。

政は身体を、くの字なりに、ぐっと曲げていよいよ飛びこむ用意をした。

「やッ!」

懸声諸共、わしは、身体を宙に浮かせて、左手をウンと、さしのべると、ここぞと思う空間を、グッと掴んだ。――

手応えはあった。

工場の屋根が、吹きとぶほど大きな歓声が、ドッと下の方から湧きあがった。