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よながひめとみみお
夜長姫と耳男
「新潮 第四九巻第六号」1952(昭和27)年6月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,604 字 · 56 页
なんだ、これで全部か、とヒメは怒っているように見えた。すると、ふりむいて、ヒメは物も云わず立ち去ってしまった。
ヒメが立ち去ろうとするとき、オレの目に一粒ずつの大粒の涙がたまっているのに気がついた。
★
それからの足かけ三年というものは、オレの戦いの歴史であった。
オレは小屋にとじこもってノミをふるッていただけだが、オレがノミをふるう力は、オレの目に残るヒメの笑顔に押されつづけていた。オレはそれを押し返すために必死に戦わなければならなかった。
オレがヒメに自然に見とれてしまったことは、オレがどのようにあがいても所詮勝味がないように思われたが、オレは是が非でも押し返して、怖ろしいモノノケの像をつくらなければとあせった。
オレはひるむ心が起ったとき水を浴びることを思いついた。十パイ二十パイと気が遠くなるほど水を浴びた。また、ゴマをたくことから思いついて、オレは松ヤニをいぶした。また足のウラの土フマズに火を当てて焼いた。それらはすべてオレの心をふるい起して、襲いかかるように仕事にはげむためであった。
オレの小屋のまわりはジメジメした草むらで無数の蛇の棲み家だから、小屋の中にも蛇は遠慮なくもぐりこんできたが、オレはそれをひッさいて生き血をのんだ。