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よながひめとみみお

夜長姫と耳男

坂口 安吾

「新潮 第四九巻第六号」1952(昭和27)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,604 字 · 56 页

青空文庫

と云ったそうだ。オレはそれを人づてにきいて、思わずすくんでしまったものだ。オレが咒いをかけて刻んだことまで知りぬいていて、オレを生かしておくヒメが怖ろしいと思った。三人のタクミの作からオレの物を選んでおいて、疫病よけのマジナイにでも使うほかに取得もなさそうだとシャア/\と言うヒメの本当の腹の底が怖ろしかった。オレにヒキデモノを与えた元日には、ヒメの言葉に長者まで蒼ざめてしまった。ヒメの本当の腹の底は、父の長者にも量りかねるのであろう。ヒメがそれを行う時まで、ヒメの心は全ての人に解きがたい謎であろう。いまはオレを殺すことが念頭になくとも、元日にはあったかも知れないし、また明日はあるかも知れない。ヒメがオレの何かに興味をもったということは、オレがヒメにいつ殺されてもフシギではないということであろう。

オレのミロクはどうやらヒメの無邪気な笑顔に近づいてきた。ツブラな目。尖端に珠玉をはらんだようなミズミズしいまるみをおびた鼻。だが、そのような顔のかたちは特に技術を要することではない。オレが精魂かたむけて立向わねばならぬものは、あどけない笑顔の秘密であった。