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ゆめどのさつじんじけん
夢殿殺人事件
小栗 虫太郎
「改造」1934(昭和9)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,755 字 · 55 页
然し、立ち上ると法水は、ブルッと胴慄いして、明らかにその顔色には、容易ならぬ例題に直面しているのを、語るものがあった。
「だが支倉君、そんな事よりも、あれだけの血が一体何処へ行ってしまったのだろう?」
「ウン、確かに体外血量の測定をする必要はあると思うね。吸うのもいいだろうが、吸血鬼でも人間じゃ、立ち所に恐ろしい生理が起ってしまうぜ」と検事が尤もらしく呟くのを、法水は嘲けり返すように見て、
「所が、此の事件には、ポルナで働いたチームケ教授は要らないのだよ。此処に散らばっている金泥全部を集めた所で、恐らく二百瓦とはあるまいからね」
と暫く莨を口から放したまま考えていたが、やがて法水は玉幡の一つを取り上げた。玉幡は四本とも同型のもので、幅二尺高さ七尺ばかり、上から三分の一までの部分は、ビルマ風の如意輪観音が半跏を組んでいる繍仏になっていて、顔を指している右手の人差指だけが突出し、それには折れないように、薄い銅板を菱形にして巻いてあった。そしてその下に、中央には、日の丸形の円孔が空いている、細かい網代織りの方旛が、五つ連なっていた。重量は非常に軽く一本が六、七百匁程度で、それが普通の曼陀羅より余程太い所を見ると、たしかに蓮の繊維ではなく、何か他の植物の干茎らしいと思われた。