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ゆめどのさつじんじけん

夢殿殺人事件

小栗 虫太郎

「改造」1934(昭和9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,755 字 · 55 页

青空文庫

そして、やがてそのうちに、酒精は跡方もなく消え失せてしまったのだ。だが支倉君、斯うして犯行の全部が判ってしまうと、犯人がヒステリー患者の奇怪な生理を遺憾なく利用したと云うばかりでなく、たった一つの小窓に、千人の神経が罩められていた事が判るだろう」

検事は息を詰めて最後の問を発した。

「そうすると犯人は――一体犯人は誰なんだ?」

「それが、寂蓮尼なんだよ」と法水は沈んだ声で答えて、熱した頬を冷やすように窓際へ寄せた。

「たしか、あの日に寂蓮尼が、大吉義神呪経の中にある、孔雀吸血の伝説と云う言葉を云ったっけね。所が、調べてみると、その経文の何処にもそんな章句はない。けれども、僕は経蔵の索引カードの中から、異様な暗合を発見したのだ。と云うのは、いつぞやの『ウエビ地方の野猟』と、大吉義神呪経の図書番号とが、入れ違いになっている事なので、意外にも片方になかった記述が、セントジョンの著述にある挿話から発見されたのだよ。それは、ケラット土人の伝説なんだ。孔雀が年老いて来ると、舌に牙のような角質が生えるそうだが、それを他の生物の皮膚に突き刺し、血液の中に浸して置くと、その角質が忽ち、ポロリと欠け落ちてしまう――と云うのだがね。